吾輩は痛風である

吾輩は痛風である。痛みはまだひかない。

どう歩けばいいかとんと見当がつかぬ。昨夜も薄暗いベッドの中でイタイイタイ泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて休肝日というものを考えた。

なんだか気がくさくさして来た。K奈子さんの炭酸水でも飲んでちと景気をつけてやろう。

枕元を見る。電気はいつの間にか消えているが、月夜と思われて窓から影がさす。ベットの横にはペットポトルが2つ並んで、その一つに透明な水が半分ほどたまっている。

思い切って飲んでみろと勢いよくペットボトルに口をつけごくごくやって見ると驚いた。何だか舌の先を針でさされたようにびりびりとした。K奈子さんは何の酔狂でこんな苦いものを飲むのかわからないが、私にはとても飲み切れない。どうしても私と炭酸水は性が合わない。これは大変だと一度はつけた口を離して見たが、また考え直した。K奈子さんは口癖のように良薬は口に苦しと言ってダイエットにはこれが一番と、顔をしかめて変なものを飲む。飲むから健康なのか、健康だから飲むのか、今まで疑問であったがちょうどいいさいわいだ。この問題を炭酸水で解決してやろう。飲んで痛風が悪化したらそれまでの事、もしK奈子さんのように健康体になれれば儲け者で、近所の痛風オヤジに教えてやってもいい。まあどうなるか、運を天に任せて、やっつけると決心して再び口をつけた。眼をあいていると飲みにくいから、しっかり眠って、またごくごく始めた。

吾輩は我慢に我慢を重ねて、ようやく1本のペットボトルを飲み干した時、妙な現象が起こった。始めはお腹がムズムズして、腹中が外部から圧迫されるように苦しかったのが、目をつむるに従ってようやく楽になって、1本目を片付ける時分には別段腹も痛くなくなった。もう大丈夫と2本目は難なくやっつけた。

それからしばらくの間は自分の動静を伺うため、じっとすくんでいた。しかし、次第に腹が痛くなる。肛門のふちがぼうっとする。屁がしたくなる。

何だかしきりに腹が痛い。屁なのか、実なのか判然しない。トイレには行くつもりだが足が痛い事おびただしい。こうなればそれまでだ。屁だろうが、実だろうが驚かないんだと、腹をえいと力を込めたと思う途端ぷうっと音がして、あっと云ううち、―――やられた。どうやられたのか考える間がない。ただやられたなと気がつくか、つかないのにあとは滅茶苦茶になってしまった。

我に帰ったときには匂いが充満している。臭いから手でもって矢鱈にあおいだが、仰ぐものは空気ばかりで、仰ぐと拡散してしまう。

そのとき腹も足も痛いながら、こう考えた。

ベッドからトイレまでは10mもある。痛風の足ではすぐには出られない。呑気にしていれば実が出る。

「もうやだ。このままじゃ出る。脱糞はこれぎりご免蒙るよ」と、右足も、左足も、頭も手も全力で起き上がることにした。

次第に実が迫ってくる。腹が痛いのか足が痛いのか見当がつかない。家の中にいるのだか、トイレを探しさまよっているのだか、判然しない。1歩1歩に命がけだ。脂汗がしたたり落ちる。ただトイレである。いな痛風そのものすら感じ得ない。吾輩は出す。出してこの太平を得る。太平は出さなければ得られぬ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。

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投稿者: keishoseminar

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